眠りの特集
“眠りの備え”で避難生活が変わる! 覚えておきたい4つの防災知識
地震や津波などの災害は、ある日突然襲いかかってくるもの。
あなたが今日から避難所で生活を送ることになる可能性もゼロではありません。
個人のスペースが狭い避難所では、プライバシーを十分に確保できず、照明・周囲の生活騒音・におい・冷暖房の不十分さなど、常にストレスを受ける環境が待ち構えています。
大規模な災害や大切な人との別れを経験すると、自律神経が興奮して抗ストレスホルモンが分泌され、過覚醒状態となり眠りづらくなってしまいます。
そのため、被災直後は不眠に悩まされる人も多いのだそう。
事前に防災知識を蓄え、“眠りの備え”を行っておけば、いざというときに役立つはず。
今回は、被災時になるべく良質な睡眠がとれるようになる方法をお伝えします。
不安を和らげる呼吸法
大規模な災害にあえば、不安や緊張を感じるのは自然なこと。
人間は精神的なストレスを感じると、心も身体も警戒態勢に入って緊張し、目が冴えてしまいます。
そのような状態では、いつものようにリラックスして眠ることはできません。
「何度も目覚めてしまう」「熟睡できない」「寝つきが悪くなる」など、被災後の不眠症状は人それぞれ。
これらの身体反応は、身のまわりに生じた危機的状況に対処するための正常な反応です。
心が緊張していると、どれだけ身体をリラックスさせようとしてもうまくいきません。
先に心のケアを行うことで、身体の緊張をほぐすことができ、スムーズに入眠しやすくなります。
まずは、気持ちが落ち着く『不安を和らげる呼吸法』を覚えておきましょう。
腹式呼吸を意識して行い、副交感神経を優位にすることで、自然とリラックスできるようになります。
不安を和らげる呼吸法
①いすの背にもたれ、ゆったりと座る。
②お腹に手をあて、音を立てずに鼻からゆっくりと深く空気を吸いこむ。
心地よい空気で肺を満たすイメージをしながら、お腹をふくらませる。
③静かにやさしく、口からゆっくりと息を吐きだす。
肺やお腹から空気を吐ききってしまうイメージで、お腹をへこませる。
④ゆったりとした気持ちで、❷〜❸を5回繰り返す。
※呼吸は1分間に12〜16回のペースで行う。
人は不安を感じていると、せきを切ったように話しだし、苦しくなったところで一気に空気を吸いこみます。
このような呼吸を行っていると、過呼吸とおなじ状態に陥ってしまいます。
そんなときでも、上記のような呼吸法を繰り返せば、自然と気持ちが落ち着いてきます。
必要に応じて、何度でも呼吸を整えましょう。
被災時だけでなく日常でも活用できるため、不安や緊張を感じたときにはぜひお試しください。
身体をほぐすセルフケア
心の平穏を取りもどしたら、つぎは身体をリラックスさせてあげましょう。
リラクゼーションにより身体をほぐすことで、心身に溜まったストレスを減らし、スムーズに入眠しやすくなります。
セルフリラクゼーション
①構えの姿勢
いすに座り、背もたれからこぶし1個分くらい背中を離して、すこし浅めに座る。
腰が反りすぎないように気をつけながら、1本の糸でつるされているイメージで背筋を伸ばし、両腕の力を抜いて横に垂らす。
②肩をあげる
肩以外には力を入れないように注意して、耳につくくらい肩をあげる。
このとき、両ひじや指に力が入らないよう注意する。
③肩の力を抜く
背筋をまっすぐ伸ばした状態をキープして、ストンと肩の力を抜く。
すぐに動かず、肩の感覚の違いを感じてみる。
避難所でも自然と実践できるようになるために、日頃からセルフケアを習慣づけておきましょう。
普段からリラクゼーションを行っておくと、早めに自分の不調を知ることができ、それに応じたセルフメンテナンスを行うことも可能です。
避難生活では、ストレスで緊張し血行が悪くなることで『低体温症』のリスクが高まります。
また、身体の活動量が減ることにより血栓ができる『エコノミー症候群』になってしまうことも……。
これらの病気を予防するためにも、避難所ではセルフマッサージやストレッチを行うよう心がけましょう。
ダンボールで入眠しやすい環境づくり
良質な睡眠をとるためには、心と身体のケアはもちろん、物理的な環境の改善も重要です。
体育館や公民館などに避難所が開設された場合は、間仕切りのない空間で、硬い床に毛布を1枚だけ敷いて寝なければいけないことも……。
そんなときは、救援物資が入っていたダンボールで、パーテーションやベッドをつくりましょう。
こちらの方法なら、むずかしい手順がなくハサミ1本でできるため、子どもや高齢者でも簡単につくることができます。
パーテーションの作り方(2個分)
<材料・道具>
・ダンボール箱 1個
・ダンボール板 2枚
・ハサミ
<作り方>
出典:マゴクラ
簡易ベッドの作り方(1人分)
<材料・道具>
・ダンボール箱 12個
・ダンボール板 4枚+α
・ガムテープ
<作り方>
①ダンボール箱の底をガムテープでとめる。
②❶のなかに、対角線状にダンボール板をさしこむ。
ダンボール板の上部がダンボール箱とおなじ高さになるよう調整する。
③❷にふたをして、ガムテープでとめる。
※一部分だけガムテープをとめないことで、収納ボックスにすることも可能。
④❸をベッドのような長方形になるよう並べる。
ガムテープに余裕があれば、並べたダンボール箱を束ねて固定しておく。
⑤❹の上にダンボール板を2枚敷き、さらに毛布をかぶせる。
⑥寝そべった際に頭がくる位置の周囲をかこうように2枚のダンボール板を立てる。
ガムテープに余裕があれば、立てたダンボール板を❺に固定する。
出典:NHK つくってまもろう
眠れないときの対処法
「心と身体のケアを行って、睡眠環境も整えたけれど、それでも眠れない……」
そんなときは、「眠れるときに眠る!」と開き直ってしまいましょう。
避難所では、はやい時間から消灯したり、空腹感が強かったりするだけでなく、周囲の騒音やにおい、冷暖房の不十分さなど、普段の睡眠環境よりもストレスが多くなります。
そのような環境下で「夜中にみんなといっしょに眠らなければ」と身構えていると、余計に寝つきが悪くなってしまいます。
なかなか寝つけないときは、無理に眠ろうとする必要はありません。
自然と眠気が訪れるまで、呼吸をゆっくりと整えて静かに寝転んでみましょう。
まとまった睡眠をとることよりも、疲れを癒すことのほうが大切です。
暗い避難所で横になることに苦痛を感じる場合は、いったん起きて明るい部屋ですごすのもよいでしょう。
長いあいだ横になっていると、睡眠が浅くなってしまうというデメリットもあります。
また、一度に長時間寝ようとしても眠れないときは、夜間の睡眠にこだわらず、短時間睡眠を2〜3回繰り返すのもオススメです。
たとえ30分でも眠ることで、体力が格段に回復します。
どうしても眠りたい場合には、睡眠薬を使用するのもひとつの手段です。
ただし、眠る目的でのアルコールの飲用は控えましょう。
お酒は深い睡眠を減らしてしまい、目覚めが多くなってしまうので注意が必要です。
夜にぐっすりと眠るためには、昼間にできるだけ日光を浴びながら身体を動かし、昼夜のメリハリをつけることが大切です。
そのうえでアイマスクや耳栓を活用したり、靴下や手袋により身体の末端を暖めたりすると、さらに寝つきがよくなります。
可能であれば、入浴やシャワーなどで身体をリラックスさせるのもよいでしょう。
上記のような方法をいくら試しても、目が冴えてしまってなかなか眠れない場合もあります。
しかし、それは災害という危機的状況に対処するための正常な反応なのです。
眠れないときは、“思いきって起きておく”という選択肢も視野に入れてみてください。
備えておくべき防災アイテム
被災直後のケアとおなじくらい大切なのが、事前の備え。
備蓄や非常用持ち出し袋の準備、安否確認の方法、避難場所や避難経路の確認など……。
“もしものとき”に備えておくだけで、その後の避難生活が大きく変わります。
食糧や飲料をすぐに備えるのは大変ですが、印刷して記入するだけの『防災カード』や『非常持ち出し品チェックリスト』は準備が簡単。
「大切な情報はスマートフォンに入っているから大丈夫」と思っていても、紛失したり故障させてしまったりすると、一気に情報を失ってしまいます。
あらかじめ、緊急時の集合場所や大切な人の連絡先などの情報をまとめておきましょう。
また、災害発生時には、防災グッズだけでなくキャンプ用品もおおいに役立ちます。
キャンプ用品は防災グッズに求められる要素と共通する点が多く、緊急時にも力を発揮するのです。
キャンプ用の寝具があるだけで避難生活の快適さが大幅に向上するため、可能であれば揃えておきたいアイテムのひとつだといえるでしょう。
災害に備えるには、これらの“物理的な備え”と“知識の備え”の両方が重要です。
もし被災してしまった場合には、心・身体・環境の3つを整える“眠りの備え”を活用し、なるべく良質な睡眠をとるよう心がけましょう。
【Point】
・日頃から呼吸法やセルフケアを実践し、いつでも行えるようにしておこう。・なるべく快適に休息がとれるような環境をつくろう。
・無理して寝ようとせず、眠れるときに眠ろう。
・いざというときのために、防災知識と防災グッズの両方を備えておこう。
<出典>
災害時こころの情報支援センター
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
一般社団法人 日本内科学会
子ども応援便り
筆者プロフィール
ライター 宇都宮 桜子